大蛇倉沢のコウモリ穴3D測量

2021年4月25日(日)
群馬県多野郡上野村の神流川本谷支流大蛇倉(だいじゃくら)沢のコウモリ穴にて、iPhone12Proに搭載された3Dレーザースキャナーを用いた測量を行った。
参加者は荒波、林田、中村、川崎、神澤、松山、須藤の7名。
これは林田らにより『精進湖口・試練の穴』において行われた測量方法(注1)を用いて複雑に入り組んだ石灰洞の測量を実証するものである。
(と、かっこよく言ってみたものの単純に興味から実践してみた活動である)

9:00、「川の駅上野」にて合流し、大蛇倉沢へ向かう。
途中の道路は荒れているものの、通行には支障なく、大蛇倉沢出合いへと到着した。
今回が初参加・初ケイビングとなるメンバーもおり、簡単に打ち合わせた後コウモリ穴へ向かう。
コウモリ穴は大蛇倉沢左岸側露岩に開口しており、沢の堰堤を挟んで上流側には『大蛇倉沢左岸の穴第一洞』も確認されている。
(位置関係は1999/6/19 PCC活動記録を参照されたい)

10:15、まずは上流側の『大蛇倉沢左岸の穴第一洞』に入洞し、順に奥へ進んで行く。
洞口から1.5mほどの段差を降りるとすぐに急な斜洞を登る。ほぼ一本道で、斜洞の上まで登りつめると、上部にはクラック上の隙間がある。
林田がこの隙間にアタックし、3mほど先で見事上層部に通り抜けた。

抜けたところは小ホールとなっており、洞床は中央が土、壁際は小石交じりの土で左右に分岐している。
また天井を見るとさらに上方に空間が確認できた。
左側は4mほどで埋没しており、右側は先が続いておりいくつか分岐があるが、いずれも数m先が埋没していた。
ただし洞床は土のところが多く、水の溜まった跡などもあり、ディギング次第では伸びる可能があると考えられる。
これらの空間に足跡は見当たらず、未発見の空間と思われたが、後に確認したところPCCの過去の活動においてクラックは通過したものの、グアノが大量に堆積しておりそれ以上の探索は控えたとのことであった。
どうやら長い年月の間にコウモリは居場所を変え、洞内環境が変化していたようである。
今回は斜洞上部にコキクガシラコウモリを2体確認したのみであった。

一通り確認したところでまだ11時であった。ここで集合写真を撮り、順に出洞し下流側の『コウモリ穴』へ向かうこととする。
クラック上の狭洞部を抜けるのに待機時間があるため、荒波は最奥部より3Dスキャンを開始した。
データ容量が大きくなりすぎるとテクスチャが失われたり、アプリがフリーズする恐れがあるため、最奥部から4~5mでスキャンをやめ、データを区切ることにする。
片手にiPhoneを持ちながら匍匐前進、後退を繰り返しながらデータを記録していく。
事前に洞外で何度かスキャンを試していたものの、実際に狭洞部で行うと無暗に身体を動かせないと感じた。
というのも、iPhoneの前方にあるものを記録していくため、傾けすぎたり落としたりして自分が映り込んでしまってはやり直しとなる。
また日常使用している端末であり、従来の測量器具より高価であることも意識したため、より慎重になってしまったのかもしれない。
(今回使用端末1台だけで従来器具の3倍の金額を投資している・・・)

荒波がホールに戻ると、まだ数名が通り抜けられずに待機していた。
人の映り込みに注意しながら、ホール奥側をスキャンした。
ホール上層はすでに登っていた林田に端末を渡しスキャンする。
従来方法と異なり、スケッチャーが全ての空間に入る必要がないため、時間が短縮できた。
その後は荒波1名で洞口まで順に3Dスキャンを行い、最奥部からは狭洞部の待機時間を含めても40分ほどであった。
目測ではあるが、従来の方法ではポイントが10~15程度(精度によると思うが…)必要と思われ、洞内所要時間の短縮を実感した。(所要工数の比較は、注1を参照されたい)

全員が出洞しないうちに、順次下流側の『コウモリ穴』にも入洞を開始したが、まず須藤を筆頭に入洞し、両洞の連結を探索することにした。
というのも、事前にPCC会長の芦田は「2つの穴はその位置関係からどこかで繋がっているのではないか」と推測しており、今回確認を行った。
その結果、『大蛇倉沢左岸の穴第一洞』上層部に残っていた林田と、『コウモリ穴』の須藤の間でヘッドライトの光を目視することができた。
狭い隙間であったが、ディギング次第では人の通れる空間も拡げられると思われる。
確認できた連結部は、『大蛇倉沢左岸の穴第一洞』上層部の隙間と、『コウモリ穴』洞口から続くホール西方の通路最奥部であった。

さて、『コウモリ穴』に入洞したメンバーは、最初の小ホールより狭い隙間を下へと降りた。
下にもグアノが堆積する小さなホール状の空間があり、左右に支洞が伸び、右(東)側は匍匐の先が埋没、左側は上方へと向かっている。
折り返しながら上方へ進むと、行先が見えていなければ諦めそうな、狭い通路がやや傾斜をつけながら更に伸びている。
人数が多いため上方からも探索しており、行先が最初のホールであることは確認済みであった。
中村は最初の小ホールから逆方向に通過したという。
通らなくても支障はないが、通らなければ男が廃る!ということで須藤が下からの通過を試みる。
右手を下にして空間に体をねじ込み、なんとかもがこうとするが、前に進まない。
「ああ~、これは嫌いなやつ!」と一度諦めかけるも、左手を下にして再度挑戦する。
苦闘3分、ようやく通り抜けた。その後も松山、神澤、川崎と通り抜けるが、意外にもすんなり抜けてしまった。
全力で叫びながら通り抜けたのは須藤だけであった。

その後、川崎を先頭に荒波、林田の3名で、下層部の狭洞部にアタックを試みる。
ここは1999年11月6日のPCC活動『大蛇倉沢のコウモリ穴探検ケイビング/大蛇倉沢洞窟探索』において、
「のぞきこんで見ると、狭くて母岩が突き出ていたので入ることはできなかった。その3mほど奥にはコウモリが飛んでいる空間が見えた。ここの突破は次回の課題にしたい。」
とあるとおり、空間は確認したものの通過できていない箇所である。
洞床は大きめの石が混じる土砂であったため、先頭の川崎が掘り下げつつ身体を押し込んでいく。
そしてヘルメットを外し通過。荒波、林田が続く。後続者は多少、通りやすくなったものの、ヘルメットは外さなければならないほどの狭さであった。
5mほど先に抜けたところは人が立てるほどの空間があった。天井も3m以上ある、さらに狭い通路が奥へと続く。
方角は『大蛇倉沢左岸の穴第一洞』に向かっている。未知の連結部を期待しながら進むが10m弱で埋没し、最初の狭洞部入口から30分ほどで探検は終了した。
なお『コウモリ穴』は洞口から順に3Dスキャンを行っており、帰りはただ通り抜けるのみであった。

一旦大蛇倉沢出合いまでもどり、遅めの昼食をとる。
早朝に須藤が群馬県内で採取してきたタラノメ、コシアブラなどを天ぷらにして皆でいただく。
採れたての山菜は林田の「口から春がやってきた」という名言とともに、瞬く間に食べつくされてしまった。

昼食後は下山予定時刻まで1時間ほどあったため、神流川本谷の探索を行うが、成果は得られなかった。
また、荒波は単独で「大蛇倉沢のサンゴ穴」洞口のGPSデータを取得するため大蛇倉沢林道を歩いて往復した。
驚くことに林道は昨年の大型台風の影響か荒れ果て、路盤が流出している箇所が複数あった。
林道は右岸側であるが、対岸も崩れており、崩れた下から石灰岩が露出していた。
もしかすると新たな洞口が生まれているかもしれない。

今回、『コウモリ穴』および『大蛇倉沢左岸の穴第一洞』の連結と、意外にも狭洞好きケイバー好みの、ファンケイビング対象洞であることを確認できた。
また、両穴の洞口間を洞外測量(3Dスキャン)しており、今回探検した通路の位置関係を明らかにすることで、新たな連結部が見つかるかもしれない。
なお、今回分割取得した3Dデータは21個であった。
『精進湖口・試練の穴』測量において林田が取得したデータの4倍以上だという。
データの結合位置がずれれば全体の誤差は大きくなり、これから行う作業は慎重に行う必要がありそうだ。
そして所要時間も相当数かかる見込みである。
現時点で3つのデータを結合しようとして、すでに難航している。
次回の3Dレーダースキャナを用いた測量の際は、意識して特徴のある箇所で分割したり結合の目印を置くなどの工夫が必要である。

※注1 「スマートフォンの3Dレーザーを用いた『精進湖口・試練の穴』の新溶岩洞窟の測量』 林田敦・渡邉薫・芦田宏一 」 ケイビングジャーナル第25巻第1号 通巻71号