向かい谷新洞調査ケイビング/大血川支流向かい谷をさかのぼって

お盆を目前に控えた2005年8月14日、埼玉県秩父市、関東山地の荒川支流、大血川のそのまた支流の向かい谷奥にある鍾乳洞に入るべく、「じいちゃん、ばあちゃん、御免な」とつぶやきつつ、三人の精鋭が荒川道の駅に集結しました。
 新洞探索家の芦田さんを筆頭に、狭洞専門の小野さん、なぜか石好きの柏木です。集まった瞬間から、周囲には緊張感がひた走っています。ご先祖様に怒られたらどうしよう、信心深い私たち三人にとって、その事だけが頭をよぎって離れません。でも、仕方ありません、もう来てしまったのです、行くしかありません。
 さて、車で大血川に沿う道路に移動し装備などの準備を整えて、まずは大血川河床へといきなり標高差70mほど林道に沿って降ります。ああ、帰りはこれを登らないかんがね~、と、悲しく心の中でつぶやきながら……。
 大血川に掛かっていた橋は、治山工事終了から相当経っているため、既に流されてなくなっています。石の上を飛ぶか、膝下程度の水に入って渡ります。石に乗る度にすべることの多い私は、迷わずに水に入って渡りました。まあ、この時期、結構気持ちいいし、渡ってからしばらく林道を歩くので、そのうちに乾きます。
 さてさて、健脚ケイバーの小野氏と芦田氏の後を、駄目脚ケイバーの柏木がとぼとぼ歩きます。林道沿いには、ハンマーで叩きたくなるような露頭(石が出ている崖)が、ちょこまかとあったりします。ああ~、叩きたい~、という誘惑を必死に抑えつつ、でも、目で崖を見つめながら、今度来た時には必ず叩くからね、と露頭にそっと語りかけます。露頭も、きっとこう思っているでしょう、「今度来る時には僕を叩きまくって、それからルートマップに岩石名と構造を記入してね~」と・・・・。
 そのうち、林道沿いに石灰岩の転石が目立ち始めました。芦田さんの目が何故かお星様のように輝き始めました。「小野君、この沢だよ~」という芦田さんの姿は、いつまでも感動を忘れることの無いteenager(一般に、13~19歳の少年、少女のことを指す)のようです。
 さて、沢沿いを歩いて5分もしないうちに大血川新洞に到着しました。芦田さんが、おもむろに鞄から計器を取り出し、水温やペーハーなどの水質測定を始めます。おおつ、かっこいい~!、と、私はついつい写真をバシバシ撮ってしまいました。
 さて、ここからはしばらく、沢沿いを歩いて滝を巻いてと、沢歩きが続きます。特筆すべきことに、ヒキガエルがそこら中にいます。ここはヒキガエルパラダイスか!? と思わせるほどです。一匹一匹、写真を撮ったり、捕まえてリリースコールを楽しんだり、と、しばしの自然との触合いタイムです。中には、触られてもじっとして動かず、リリースコールも出さず、仰向けにおいても微動だにしない、死んだ振りのうまい奴もいました。ヒキガエルがかもし出す大自然の知恵にたじたじです。
 さて、沢を登っていく途中、多量の湧水が出ている石灰岩の壁で、ペットボトルに水分を補給します。旨い水を飲んで、しばしの休憩です。また、対岸の石灰岩の露頭を見ると、ちょいと楽しい変形構造なんかがあって、水分を補給した体に良い刺激になりました。
 さて、さらに沢を遡行し、斜面をはいずり登って、目的の向かい谷新洞に到着しました。狭い入り口からクラック状の竪穴で、しばらくフリーでチムニを使って降ります。フリーで降りる最後の空間は、結構狭かったりするので、登り返せるかな~、と不安になったりします。
 先導のケイバー小野は、狭洞専門の体を駆使して、さっさとフリーで行ける最奥まで移動し、ラダーの設置を始めました。そして、確保なしでラダーを使って下に降りていきます。
 さて、私は一応ハーネスを付けて、カワズテイルでラダーに確保を取りながら、慎重に降り始めました。ただ、いかんせんラダーの昇降技術をきちんと学び、練習しているわけではありません。結構、狭いところを通過することもあり、安全を考えて今回は降りるのを諦めました。
 芦田さんも、「徹夜ばかりの生活が、僕の体をこんなにしたんだ……」とつぶやきつつ、泣く泣く降りるのを諦めました。結局、最奥まで到達したのは、PCCが誇る”狭洞ケイバー小野”だけでした。
 さて、狭洞専門の小野さんは、大海原を連想させるような心の広さで、洞床にちらばる獣骨をたくさん採取してきてくれました。降りれないと判断した時、私は、獣骨、採取できやんやん、”どうしょを~”、と思ったのですが、それも杞憂に終わりました。サンキュ!
 ところで、まだまだ困難は続きます。フリーで洞口へ登り返す際、芦田さんは最初の狭洞につかまってしまい、下から押し上げてなんとか脱出することができました。柏木も、程度の差こそあれ、やはりすんなりと上がることができませんでした。
 出洞した時には既に16時を廻っていて、これから天気が崩れるということもあり、やや薄暗く感じられました。私は、とりあえず休憩して帰り支度を整え、芦田さんと小野さんはフローストーンの穴に向かいました。その後、ぼちぼちと沢を降り、柏木が最後に車のところに到着したのは、既に19時を過ぎていました。
 今回の活動で、かなり芦田さんと小野さんの足を引っ張ってしまい、遅々とした足取りを反省しなければなりません。でも、沢の美しさといい、鍾乳洞の美しさといい、是非とも再訪したい場所です。鍾乳洞ファンのみならず、ヒキガエルファン(ヒッキー)にもお勧めの沢です。
(柏木 記)