矢弓沢第1次洞窟探索/矢弓沢洞第1次練習ケイビング

1998年7月26日(日)、群馬県多野郡上野村矢弓(やきゅう)沢で新洞探索を行う。参加者は芦田、石母田、野中の3名。
 上野村教育委員会から提供された上野村村誌により村内の矢弓沢に未調査の鍾乳洞が存在すること、また、付近に石灰岩体が分布していることなどが判明したため、今回、その鍾乳洞の確認と付近の洞窟探索を行うことにした。
 林道矢弓沢線を登っていき、標高1000メートルあたりの林道が右にカーブする付近に、左の山側から石灰岩の転石が多数ある沢が流れているのを確認する。林道から山の上方を見上げると石灰岩峰あり、その岩壁基部に複数の洞口を確認することもできた。ここが目的の場所と確信し、探索・探検装備の準備をして、その岩壁に向かう。
 石灰岩壁近づくと小さい露岩の基部に洞口がある。さっそく入洞したところ、全長約5メートルほど石灰洞で、奥は狭くて入洞不能になる。冷風が吹き出していて、ディギングが可能である。その右手の方にも全長3メートルほどの小穴がある。行き先は同じ状況だった。
 右に回り込むようにして小規模な露岩を越えて石灰岩壁を目指すと右手上方に洞口らしきものを発見する。間口5メートル、高さ3メートルほどの大きな洞口で、行き先は斜洞となって下っていっている。野中、芦田、石母田の順に入洞を開始する。
 洞内は意外に広い。充分に立って歩くことができる。ただし、下り気味の斜洞のうえ、洞床や洞壁が泥でツルツルになっているので、非常に滑りやすい。つらら石や石筍などの二次生成物は見られない。
 途中、左に行く支洞が何本かあり、外光が見える。石灰岩壁にそって複数の洞口が存在することがわかる。上方に延びる支洞2本はいずれも行き止まりとなっている。そのうちの1本からは非常に大きなコウモリが数匹飛び出してきた。
 一番下の洞口から外に出て、休息をとる。その後、再び入洞し、最下部洞口付近にある下に向かう狭洞を抜け、下層に降りる。下層も狭洞を抜けると、広くなり、立って移動が可能になる。上層に較べて、泥が少なく、フローストーンなども白くて、きれいだった。また、洞窟珊瑚などが見られた。
 ここでちょっとしたハプニングに遭遇する。なんと単一用のキャップライトが洞壁に引っかかっていたのである。さらにその下の方には青いヘルメットが落ちていた。一瞬、遭難者がいるのかと驚いたが、どうも上層から落としてしまったものらしい。
 一番下層の左側の支洞は上方に向かうが、落ち葉の混ざった土砂で埋没している。外が近いようだった。右側の支洞はわずかな水流が流れ込んでいて、狭洞となり、入洞不能になる。
 この石灰洞の推定測線延長は150メートルくらいで、奥多摩のちょうちん穴に匹敵する規模である。また、洞内にそれほど困難な箇所が存在せず、車から3分ほどの位置に洞口があるので、初心者ケイビングにはもってこいの洞窟である。
 このあと、出洞して昼食をとり、付近で洞窟探索を行う。その結果、左側へ回り込んだところで、5メートルと10メートルほどの穴を見つける。どちらも奥部でディギングをやれば、先ほど探検した洞窟につながる可能性がある。一応、「矢弓沢洞裏の穴第一洞」、「矢弓沢洞裏の穴第二洞」と命名する。
 さらに左に回り込むと、最初の間口5メートルの洞口に達する。なんと、この洞窟のある岩峰はパイン缶のように、円柱状をした独立岩峰だったのである。そのすぐ隣にも、もっと規模の大きい独立岩峰があったが、こちらの岩峰では新洞は発見できなかった。なお、最初の洞窟がある岩峰には壁の上の方にあり、取りつきが困難な洞口を2本確認しているが、今回はアタックを断念した。
 その後、車に戻り、着替えて、矢弓沢の対岸にそびえる白板山を車で目指す。林道の標高1150メートル付近のヘアピンカーブからやぶこぎをしていけば、石灰岩壁に到達可能であることを確認した。残念ながら霧のため、視界不良で充分に山々を観察することはできなかった。
 林道をそのまま登り続けると、十石峠の299号線につながっている。ついでだったので地形図の白板山の西約1.8キロ付近にある窪地状の地形の調査に向かう。付近に石灰岩の露岩があれば、ドリーネの可能性がある。しかし、顕著な石灰岩の露岩を確認することはできなかった。
 同じ道を通り、再び矢弓沢の洞窟の前まで戻る。ここで目印になるものを探していると、なんと洞窟の方から数人の小学生が降りてくるのが見えた。手に懐中電灯を持っている。どうやら、先ほどの洞窟に入洞していたらしい。さっそく、ヒヤリングしてみる。
 彼らは『ガキ大将スクール』というアウトドア体験学校の参加者で、サバイバル班として「洞窟探検」に来たとのこと。引率はボランティアの地元高校生で、話を聞くと、『ガキ大将スクール』では毎夏、この「洞窟探検」をやっているとのこと。洞内で落ちていたライトやヘルメットは彼らが去年落としたものであること。地元ではこの洞窟のことを矢弓沢洞と呼んでいるとのことなどが判明した。
 これで洞内が異様に泥で汚れていたことの理由がわかった。毎年、何十人もの人間が入洞しているわけだから、汚れるはずである。彼らは下層部までは行かないとのことなので、下層部がきれいなのも当然であった。
 引率の高校生に他に洞窟情報を聞いたが、ここ以外では乙父沢のカバ穴しか知らないようであった。乙父沢のカバ穴については、もぐらケイビングクラブの資料で、乙父沢付近に3つの小規模洞があることがわかっていたので、そのうちの林道沿いの穴であることが判明した。
 帰りに、明大地底研が調査した石灰洞がある坂下の石灰岩峰の取りつき位置を調査し、生犬穴の洞口の位置を確認して、上野村をあとにした。なお、秩父から矢弓沢洞までは1時間半弱で到着可能である。所沢からでも2時間半強くらいと思われる。
(芦田 記)