豆焼沢鍾乳洞探検ケイビング/豆焼沢洞窟探索

1984年4月15日(日)。曇りのち雨。埼玉県秩父郡大滝村(現秩父市)滝川の支流、豆焼沢にある豆焼沢鍾乳洞で第1次探検ケイビングを、第1次洞窟探索を行う。参加者は芦田、白幡、深田、百瀬の4名。
 最近、奥秩父の洞窟に関する資料を何点か入手することができた。これまでPCCは奥多摩を中心にケイビング及び洞窟探索を行ってきたが、奥秩父もそれなりに有望なフィールドではないかということになり、今回、初めて奥秩父でケイビング及び洞窟探索を行うことにした。
 今回の目的地である豆焼沢鍾乳洞は『埼玉の鍾乳洞』(埼玉県文化財保護協会発行)及び『埼玉大百科事典』(埼玉新聞社発行)に記載されている鍾乳洞で、埼玉県秩父群大滝村滝川豆焼沢沿いの標高1270m地点に開口する横穴型鍾乳洞である。洞口は上下に2つあり、下の第一洞口より多量の水が流出している。その全長は約30mほどで、秩父でも規模の小さい鍾乳洞であるが、参考資料には「水の流出量から推定して、大規模なものと考えられる」と記述されている。
 当日、午前0時にレンタカーで新宿を出発。豆焼大橋に午前5時に到着。ここより徒歩で山の作業道を登る。たいへん荒れていて、道を失いやすい。また、30cmくらいの残雪が山の北側に残っており、非常に歩きにくい。
 約2時間ほど歩くと豆焼沢本流に降りられる。そこには2段8mほどの滝がある。トウの滝である。滝の右側の壁を巻いて、その上に出ると平坦な河原がしばらく続く。約200mほど進むと左岸に石灰岩壁が現われ、ちょうど顔の高さぐらいの所に奥行5mほどの小さい洞穴がある。
 さらに、その上方8mぐらいの所にも洞口を確認できた。ラダーをかけ、入洞してみる。10mほど入った地点で埋没していたが、ディギングすると、さらに下に向かって20mほど続いている。最奥部は再び埋没していた。その付近には小さいながらも、つらら石、石筍、カーテンなどが見られた。トウの滝の上流にある洞穴なので、下の方を『トウの風穴下洞』、上の方を『トウの風穴上洞』と命名した。
 そこより、さらに上流300m地点で、左岸より緩やかな斜め滝が落ちてきている。付近はすべて雪に覆われ、豆焼沢本流も氷結していたが、その滝だけは氷結しておらず、緑の苔に覆われた岩の上を滝水が勢いよく流れ落ちていた。この滝を見て、すぐにピンときた。「これが水穴から湧き出している水だ」と!
 その滝を25mほど登ると、水穴があり、滝の水源となっている。洞口を入って、すぐに上下に分かれる。下は水穴となって水没する。上の洞を5m進むと、再び水穴と合流するが、その行き先は崩落岩塊によって塞がれている。水流は岩塊のすき間から流れ出てきており、気流も感じることができる。しかし、ディギングを行うには崩落岩塊が大きい上に落盤する可能性が高いので、非常に危険である。
 この場所のすぐ上に小さな抜け穴があり、そこを抜けると小ホールとなっている。天井も壁も白く、フローストーンっぽくなっている。その小ホールには埋没洞が2つあり、両方をディギングしてみたところ、上方に向かう穴が大音響とともに大落石を起こしてポッカリと開口する。しかし、まだ落石の危険があるため、入洞は控える。
 いったん洞外へ出る。山の斜面をさらに登り、崖の下まで行く。そこには高さ約2m、幅約5mの洞口があった。洞穴は洞口から急激に下っていて、約3mほど降りると、天井高が5m以上あるホールとなる。洞床はガレキで、その下からは水流の激しい音が聞こえてくる。下には、ある程度の大きさを持つ空洞があるのかもしれない。
 また、洞口からの斜面が終わる辺りの洞床に下から開いたと思われる穴があった。どうやら、先ほど、下の穴の奥で掘り抜いた穴らしい。『埼玉の鍾乳洞』に記載されたいる洞内縦断面図によると、下の水穴と上の崖穴の2つで1つの洞穴──豆焼沢鍾乳洞ということになるらしい。
 激しい水流の音がする洞床をディギングしてみたが、ガレキのため、非常に掘りにくく、また、滞洞時間が1時間しかとれなかったために、50cmほどしか掘れなかった。現在の豆焼沢鍾乳洞は全長30mぐらいの洞穴であるが、ディギング作業しだいでは、まだ伸びる可能性が充分にある。また、付近の地形から見て、他にも洞穴がある可能性も大きい。次の機会には豆焼沢鍾乳洞のディギングと付近での洞窟探索を時間をかけて行いたい。
(芦田 記)